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2023-09-29 02:42:14
日本は移民政策をとらない、というのが従来の政府の見解です。
確かに、日本における移民の数は少ないというのが実感です。
一方で、短期滞在の外国人単純労働者の数は増え、数字の上ではすでに移民大国であるという意見もみられます。
日本の移民政策の現状を正しく理解するために、まず移民とは何か、諸外国の移民政策はどのようなものかを説明し、そして現在の日本の移民政策を解説します。
合わせてSDGsの10番目の目標である「人と国の不平等をなくそう」の観点から、移民政策をどう考えればよいのかということや、私たちひとり一人ができること、すべきことは何かも考えてみます。
日本の移民政策を解説する前に、「移民」の意味を正しく理解しておくことが欠かせません。
加えて、なぜ移民政策が必要なのかも見てみましょう。
代表的国語辞典である岩波書店の「広辞苑」によると、「移民」とは「個人または集団が、恒久的にまたは相当長期にわたって、一国から他国に移住すること。また、その人びと」とあります。
これが、私たち日本人が「移民」という言葉について抱いているイメージです。
重要なことは、「恒久的にまたは相当長期にわたって」というところでしょう。
一方、国際移住機関IMOの定義によれば、移民とは「当人の (1) 法的地位、(2) 移動が自発的か非自発的か、(3) 移動の理由、(4) 滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」とあります。
前述の広辞苑と異なるところは、「滞在期間に関わらず」というところです。
つまり、「移民」という言葉に対する日本人の感覚と国際標準との違いがここにあります。
そのために、日本は移民をほとんど受け入れていないという意見もあれば、日本はすでに移民大国であるという意見も見られることになります。
現代はグローバル化の時代です。
人・物・金・情報の国境の壁が低くなっています。
一方、国内は少子高齢化による労働力不足や経済成長の停滞による閉塞感が漂っています。
日本のこのような状況を打破するためにも、外国人の活力や知恵が必要となっています。
さらに、21世紀になっても地域紛争が消えることなく世界のあちこちで頻発し、避難を余儀なくされる人たちは後を絶ちません。
日本は世界の紛争地域から離れていることもあって、受け入れる難民の数が少ないとの指摘があります。
難民を他国にばかり押し付けるのではなく、先進国の一員として責任を果たす必要があるでしょう。
SDGsの10番目の目標に「人と国の不平等をなくそう」があり、その中のターゲット10.7では「計画に基づき良く管理された移民政策の実施などを通じて、秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進する」と挙げられています。
この意味からも、移民政策が求められます。
移民は島国の日本よりも、陸続きの外国の方が歴史も古く盛んです。
そこで、日本の移民政策を見る前に、外国の移民政策を簡単に紹介しましょう。
アメリカは、国の成り立ちからして移民国家です。
その後も多くの移民を受け入れ、移民によって支えられてきたという現実があります。
ところが、アメリカの移民政策の変遷は移民の禁止や移民の制限の歴史であり、一様ではありません。
アメリカへ入国するビザには、非移民ビザと移民ビザがあります。
非移民ビザが観光やビジネス、留学などの一時滞在を目的とするいわゆる一般のビザです。
それに対して、移民ビザは永住を目的とするビザで、日本にはそのようなビザはありません。
アメリカの移民の数は5,100万人(注1)であり、世界でも最も多く受け入れています。
トランプ政権は、移民がアメリカ人の職を奪うなどの理由から移民の受け入れを厳しくし、特に不法移民を入れないために国境に壁を設置するなどの政策をとっていました。
ただし、バイデン政権になってからは緩和される方向にあります。
(注1)「国際移民の総数は、引き続き世界人口を上回るペースで増加」|国際連合広報センター
ドイツやフランスは多くの国と接しており、アフリカ北部や中近東に近いこともあって移民を多く受け入れています。
ドイツでは1,300万人(注1)、フランスでは800万人(注1)の移民が在留しています。
在留資格には、一般に期限があります。
しかし、EUには移住先の国籍を取得しなくても「定住許可」を取れば、期間無制限の在留資格となります。
ドイツやフランスは、そのような人たちの統合教育に力を入れています。
つまり、ドイツ語やフランス語、法律、文化、歴史などを教育し、それぞれの社会の中で協調して暮らせるようになることを目的としています。
(注1)「国際移民の総数は、引き続き世界人口を上回るペースで増加」|国際連合広報センター
移民が発生する理由の多くは貧困や就職難ですが、移住先でも貧困や求職難、疎外や差別が問題となります。
それは移民本人だけの問題だけでなく、受け入れ国にとっても貧困地域の発生、社会保障の負担、治安不安、近隣住民との混乱などが大きな問題となります。
移民政策は大きく分けると、
があります。
日本政府は移民政策はとらないと表明しているように、日本には2つについていずれも明確な政策はありません。
難民・移民の受け入れは先進国としては少なく、社会統合化についても受け入れ先の会社などに任されているのが現状です。
日本における2019年の難民認定は、わずか44人(認定率0.4%)でした。
一方、ドイツは約5万3千人(同25.9%)、アメリカは4万4千人(同29.6%)と日本に比べ3桁も多いです。(注2)
移民の数は先にも触れたように国際連合広報センターのまとめによるとアメリカは5,100万人、ドイツが1,300万人、フランスが800万人に対して日本は250万人(注3)に過ぎません。
難民や移民が少ないのは国として、そのような政策をとっていないのが原因であると理解できます。
(注2)「日本の難民認定はなぜ少ないか?」|難民支援協会
(注3)「永住者の在留資格について」|法務省入国管理局
日本は移民を積極的に受け入れることはしていませんが、非専門的・非技術的分野における労働者の不足から、それらの分野における上限5年の短期の外国人労働者を受け入れています。
それが1993年に発足した技能実習制度であり、「技能実習」という在留資格を設けました。
これにより、技能実習を名目に外国人単純労働者の受け入れを可能にしました。
人材が不足する分野で働く人を外国人に求めたわけです。
その分野とは農業、漁業、食品製造、繊維・衣服関係などです。
技能実習生は、2020年6月時点で約40万人(注4)に達しています。
それに関連して、2018年に3ヶ月以上滞在する予定で日本に来た人は、519,700人(注5)に達しました。
これはドイツ1,383,580人、米国1,096,611人、スペイン559,998人に次ぐ第4位であり、日本はすでに移民大国であるとの意見の根拠になっています。
(注4)「統計で見る日本」|総務省統計局
(注5)「国際移民データベース」|OECD
2019年に入管法が改正され、「技能実習」に加えて新たに最長5年の在留資格として「特定技能」が設けられました。
技能実習は非専門的・非技術的分野に従事する労働者を外国人に求めることを目的としていました。
特定技能制度はブルーカラーにおける、より専門的・技術的分野に従事する労働者を外国人に求めることを目的しています。
具体的には、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造、電気・電子情報関係産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野が対象です。
特定技能制度は始まって短いために、2021年3月時点で22,567人(注6)とまだ少ないですが、5年間の最大受け入れ見込み数は約35万人としています。
政府は、これらは移民政策ではないとの見解ですが、短期の外国人労働者の数は確実に増えていきます。
日本に移民政策はないのですが、移民政策をとらないということも移民政策の1つです。
そこで、日本の現状の移民政策を総括して、今後のあり方を考えてみましょう。
移民に対する日本の今までの流れをまとめてみると、日本は難民や移民を積極的に受け入れる政策をとっておらず、人道的な見地などからわずかの難民を認定したり、移民を受け入れたりしているにすぎません。
また、労働力の面から言えば、高度な専門的分野の人材は積極的に受け入れてきましたが、単純労働分野の人材の受け入れは行っていませんでした。
しかし、グローバル化や労働力人口の減少などから、現在では単純労働分野の労働者も含めて短期の外国人労働者を受け入れています。
日本ではこれらの人たちを移民とは認めていませんが、国際標準でいえば移民と捉えることもできます。
流入する外国人が増加していくという現実がありながら、統合化などの対策がおろそかになれば、日本社会にさまざまな歪みを生むことになります。
日本は先進国の一員としても、SDGsの観点からも短期の外国人労働者だけでなく移民や難民にもっと門戸を開くべきであるという意見もあります。
少子高齢化の日本が、さまざまな分野で労働力人口を確保しなければならない事情から考えても必要なことでしょう。
政府が移民政策をとらない大きな要因の1つは、私たち国民の意識が移民を受け入れることにある種の拒否反応を示しているからではないでしょうか。
たとえば、外国人が部屋を借りたくてもなかなか借りられないというようなことです。
政府が移民政策をとるには、まず私たちがこの偏見を解消することから始めなければなりません。
また移民政策を成功させるために、移民や難民の日本社会への統合化政策も必要です。
移民や難民の宗教や生活習慣、価値観などの文化の違いを、私たちも理解し認めなければなりません。
しかし、それが行き過ぎると日本の良さが失われることにもなります。
どこまで彼らの立場を認め、どこからは日本の文化に協調しなければならないか、双方が納得できる線引きが重要です。
最後に、日本の移民政策の現状を人の移動である移民、難民、短期滞在者の面からまとめてみます。
まず、移民の数は日本の場合250万人と、欧米とくらべて圧倒的に少ないです。
また2019年の難民の受け入れ数は、日本の場合44人(認定率0.4%)とこれも圧倒的に少ないのが現実です。
ところが、2018年に3ヶ月以上の滞在予定として流入した外国人の数を見ると、日本は約52万人と一躍世界第4位になっています。
日本は高度な専門的人材は積極的に受け入れていますが、非専門的非技術的な単純労働者については1990年代から受け入れを始めました。
ブルーカラー分野の専門的技術的労働者は、2019年から受け入れを始めています。
その結果、短期滞在の外国人はこれからも増加していきます。
いずれも労働者として受け入れるもので、移民を受け入れるものではないというのが政府の見解です。
しかし、短期の労働者だけを受け入れる政策は世界に認められるものではありませんし、外国人社会と日本社会との協調の課題も既にあり、本格的な移民政策を考える時代になったのではないでしょうか。